人類進化史における「戦争の文化」

コンシリエンス学会研究会 2022年913日 ()(20時~21時30分)

【テーマ】人類進化史における「戦争の文化」

【講演者】長谷川眞理子

【司会者】伊藤隆太

【申込】コンシリエンス学会研究会(講演者:長谷川眞理子) | Peatix

【要旨】

ロシアによるウクライナ侵攻という予想外の事態に世界が驚いている。おりしも、ジョン・ダワーの著した『戦争の文化』という書物が翻訳された。本書では、第二次世界大戦の真珠湾攻撃、広島に対する原爆投下、その後のアメリカがかかわった戦争やテロの状況を分析し、戦争を起こす事態につきものの心理状態を抽出している。そして、それは、1)自らに都合のよいようにしか考えない思考のバイアス、2)異論や批判の排除、3)過度のナショナリズム、4)敵の過小評価、5)文化的・人種的偏見だとし、これを「戦争の文化」と呼んだ。私は、これは確かにその通りではないかと思う。そして、これをもう少し、人類進化の文脈の中で考えてみる価値があると思った。


私たちサピエンスを含めた人類の進化史において、人類はつねに、単独で生きることはできず、互いに密接な協力関係を持たねば生きていかれない状況であった。共同生活、共同保育は必須であり、そのような共同作業によって人類は、サバンナに進出し、農耕と牧畜を発明し、文明を築いてきた。長い進化史において、共同生活する集団のサイズは小さく、異なる集団どうしの交流は少なかった。そして、協力行動は必須であるのだが、協力には必ずや裏切りや搾取が出現するものであり、それらに対処せねばならない。内集団のメンバーどうしの間にも、外集団との関係においても、つねに競争と協力が混在しており、そのときどきの状況に応じて、敢えてリスクを冒す行動を選択した方がよい場合もあっただろう。このような進化ゲーム的状況を念頭に、先のジョン・ダワーによる戦争の文化を考えてみたい。


【参考書籍】

ジョン・W・ダワー (著) 戦争の文化: パールハーバー・ヒロシマ・9.11.・イラク (上)

              戦争の文化: パールハーバー・ヒロシマ・9.11.・イラク ()


【報告者略歴】

長谷川 眞理子(はせがわ・まりこ)

総合研究大学院大学学長。理学博士。


1976年東京大学理学部生物学科卒業 、80~82年タンザニア野生動物局に勤務、83年東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程修了 、東京大学理学部生物学科人類学教室助手、英ケンブリッジ大学研究員、専修大学助教授・教授、米イェール大学人類学部客員准教授、早稲田大学政経学部教授を経る。総合研究大学院大学先導科学研究科教授、理事・副学長などを経て、2017年から 現職。日本人間行動進化学会会長も。

専門は、行動生態学、自然人類学。野生のチンパンジー、英国のダマジカ、野生ヒツジ、スリランカのクジャクなどの研究を続け、最近は、人間の進化と適応の研究を行っている。『クジャクの雄はなぜ美しい?増補版』(紀伊國屋書店)、『進化とは何だろうか』(岩波ジュニア新書)、『ダーウィンの足跡を訪ねて』(集英社)、『世界は美しくて不思議に満ちている』(青土社)、『モノ申す人類学』(青土社)などの著書、『人間の由来(上)(下)(チャールズ・ダーウィン著)』(講談社学術文庫) 、『ダーウィンの種の起源(ジャネット・ブラウン著)』(ポプラ社)など訳書多数。

【司会者略歴】

伊藤隆太(いとう・りゅうた)

広島大学大学院人間社会科学研究科助教、博士(法学)。

2009年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同大学大学院法学研究科前期および後期博士課程修了。同大学大学院研究員および助教、日本国際問題研究所研究員を経て今に至る。戦略研究学会編集委員・書評小委員会副委員長・大会委員、国際安全保障学会総務委員、コンシリエンス学会学会長。政治学、国際関係論、進化学、歴史学、哲学、社会科学方法論など学際的研究に従事。主な研究業績には、『進化政治学と国際政治理論――人間の心と戦争をめぐる新たな分析アプローチ(芙蓉書房出版、2020年)、『進化政治学と戦争――自然科学と社会科学の統合に向けて』(芙蓉書房出版、2021年)、『進化政治学と平和――科学と理性に基づいた繁栄』(芙蓉書房出版、2022年)がある。