進化論に基づいた

意思決定科学

~Decision Science for Future Earth~

コンシリエンス学会研究会(2021年 820日 20時~21時半)

【テーマ】進化論に基づいた意思決定科学(Decision Science for Future Earth)

【報告者】矢原徹一 /【司会者】伊藤隆太

【申込】https://peatix.com/event/2370853/view

【要旨】

本研究会では、生態学者であり進化生物学者でもある矢原徹一先生に、決断科学(decision science)という、進化論に基づいた新たな意思決定科学についてお伺いいたします。


今年Springer社から出版した英文書籍 Decision Science for Future Earth の第一章に、進化生物学に依拠した人間の意思決定科学に関するコンセプト論文が発表された。この論文は、国際研究プログラム Future Earth への提言として準備されたものである。Future Earthは、政策決定者を含むさまざまな関係者との共同設計(co-design)と共同制作(co-production)を重視しているが、政策決定者と共同することは、科学の中立性・批判性を弱めるリスクをともなうので、それを回避すべく、共同設計のガイドラインを策定した。そして、このガイドラインの基礎として、「持続可能な社会のための意思決定科学」の概念フレームワークを提案し、このフレームワークにもとづいて、「どうすれば社会をよりよい未来へと変革できるか」という大きな問いに対する包括的な考察を行った。


この論文は四つのセクションで構成されている。第一部では、「持続可能な社会のための意思決定科学」の概念フレームワークを提案し、人間性(human nature)の進化生物学がこのフレームワークを構築するための鍵であると主張している。第二部では、さまざまな認知バイアスが原因でグループの意思決定が失敗することがよくあることを指摘し、国際研究プログラム Future Earth が重視する共同設計と共同制作による参加型アプローチは、合理的な意思決定を保証しないと主張している。そして、代案を検討し、共同設計のガイドラインを提唱している。


第三部では、地域社会における問題解決のサクセスストーリーをレビューし、地域社会におけるそれらの成功を、国内および世界的な意思決定にどのように結び付けることができるかを検討している。第四部では、社会の適応学習が、私たちの社会を持続可能な未来に向けて変革することを可能にするプロセスであると主張している。最後に、ハーバード大学の進化心理学者スティーヴン・ピンカーが指摘した「暴力の衰退(decline of violence)」を含む、持続可能性に向けた前向きな世界的傾向をレビューし、社会変革の背後にある認知プロセスと行動メカニズムを検討している。


本講演では、本書の編者であり、世界における生態学、進化生物学、そして持続可能性科学の権威である矢原徹一先生をお招きして、このコンセプト論文の要点を紹介し、進化生物学に依拠した人間の意思決定科学の体系が社会的問題解決にどのように貢献できるかを考察していただきます。夏の夜に、矢原先生がご提示されている、圧倒的な先見性・卓越性、そしてスケールを備えたコンシリエンス的な意思決定のフレームワーク、すなわち 決断科学(decision science) をぜひご体感ください。

【関連書物】

Yahara, Tetsukazu (Ed.) Decision Science for Future Earth: Theory and Practice. Springer Nature, 2021.

矢原徹一『決断科学のすすめ――持続可能な未来に向けて、どうすれば社会を変えられるか』(文一総合出版、2017年)。

【報告者略歴】

矢原徹一 やはらてつかず

1954年福岡県生まれ。京都大学理学部卒。東京大学助手~助教授を経て1994年より九州大学教授、2020年3月に退職。同年10月より福岡市科学館館長。著書に『花の性』『決断科学のすすめ―持続可能な未来に向けて、どうすれば社会を変えられるか』『保全生態学入門―遺伝子から景観まで』(共著)。専門は生態学、進化生物学、持続可能性科学。アジア太平洋地域生物多様性観測ネットワーク議長として、国際的な生物多様性観測計画を推進。