国際政治理論から読み解く 

「ロシア・ウクライナ戦争」

コンシリエンス学会研究会(2022年 11月12日() 13時~15

【テーマ】国際政治理論から読み解く「ロシア・ウクライナ戦争」

【報告者】野口和彦 

【司会者】伊藤隆太 

【申込】https://peatix.com/event/3330999/view

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【要旨】

ロシア・ウクライナ戦争について、我が国の論壇ではリベラル派の分析や主張が大勢を占めている。リベラル派は、戦争とは「悪い国家の指導者」が引き起こす不法行為であり、世界が法の支配、人権の尊重、民主主義からなる国際秩序へと進歩するのを妨げていると糾弾する。これらの論者に言わせれば、ロシアのウクライナ侵攻は、帝国主義的野心を持った邪悪な独裁者であるプーチン大統領にもっぱら責任があるので、罰を与えなければならない。また、リベラル派は、自由主義的国際秩序を守るために、アメリカや日本をはじめとする西側諸国はウクライナを支援して、ロシアを敗北させなければならないと説く。こうした論調は、人々が受け入れやすいストーリーを提供するので、マスメディアを席巻している。確かに、世界を善悪の二元論に分類して、「善いアメリカ」と同盟国が「悪いロシア」を懲らしめるべきとの言説は、勧善懲悪を好む人々の信条に訴えるが、そこには思わぬ落とし穴があることを忘れてはならないだろう。

国際政治は「マフィアの世界」に似ている。法の埒外に生きるマフィアは、政府の保護に期待することはできない。自分の面倒は自分で見るのがマフィアの掟である。国家間の政治も同じである。世界に国家を守る中央政府は存在しない。法の支配を担保する世界機構は存在しない。マフィア同様、国家も自分の面倒は自分で見るのが原則である。こうした世界観を持つリアリストは、ロシア・ウクライナ戦争に別の見方を提供する。世界最強の大国であるアメリカが軍事同盟であるNATOを東方に拡大したことは、ロシアの生存を脅かしてしまった。だから、ロシアはウクライナが手に負えない敵になる前に、ウクライナをアメリカの「縄張り」に入れないようにするべく、同国に侵攻したのである。リアリストはウクライナを支援することに同意するが、同時に、ロシアが核兵器を使用する危険は、ロシアを罰するほど高まるジレンマを自覚している。また、リアリストは、西欧諸国がもっとウクライナを助けるべきだと主張する。なぜなら、アメリカや日本は強大化する中国に立ち向かわなければならないからだ。今やアメリカや日本は、台頭する中国との熾烈な競争にさらされているのである。 

【講演者略歴】 

野口和彦(のぐち かずひこ) 

群馬県立女子大学教授。博士(学術)。

1989年青山学院大学国際治経済学部卒業 、その後、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科に進学して修士号(国際政治学)、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科を修了して、国際関係学専攻の博士号を取得。東海大学教養学部国際学科(現国際学部)専任講師、准教授、主任教授を経る。その間、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学客員准教授、防衛大学校大学院総合安全保障研究科兼任講師、早稲田大学アジア太平洋研究センター客員研究員、防衛省国際平和協力センターアドバイザー、世界平和研究所(現中曽根康弘世界平和研究所)プロジェクト・メンバー、海上自衛隊幹部学校および航空自衛隊幹部学校外部講師などを歴任。

専門は、国際関係理論、安全保障研究、戦略研究。インド・ 太平洋地域における中国や北朝鮮の軍事動向、バランス・オブ・ パワーと戦争の因果関係、 国際政治における核兵器の影響などの研究を続け、最近は、 ロシア・ウクライナ戦争を理論的に分析した小論を連続して「 アゴラ言論プラットフォーム」に発表している。著作としては、『 パワー・シフトと戦争』(東海大学出版会)の単著、『 国際関係理論』(勁草書房)、『国際学のすすめ』( 東海大学出版会)の編著、『集団安全保障の本質』(有信堂)、『 膨張する中国の対外関係』(勁草書房)、などの共著、『 国際関係研究へのアプローチ』(東京大学出版会) 、『政治学のリサーチ・メソッド』(勁草書房)、『 現実主義の国際政治思想』(垣内出版)などの共訳書がある。 

【司会者略歴】

伊藤 隆太(いとう りゅうた)

広島大学大学院人間社会科学研究科助教、博士(法学)。

2009年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同大学大学院法学研究科前期および後期博士課程修了。同大学大学院研究員および助教、日本国際問題研究所研究員を経て今に至る。戦略研究学会編集委員・書評小委員会副委員長・大会委員、国際安全保障学会総務委員、コンシリエンス学会学会長。政治学、国際関係論、進化学、歴史学、哲学、社会科学方法論など学際的研究に従事。主な研究業績には、『進化政治学と国際政治理論――人間の心と戦争をめぐる新たな分析アプローチ(芙蓉書房出版、2020年)、『進化政治学と戦争――自然科学と社会科学の統合に向けて』(芙蓉書房出版、2021年)、『進化政治学と平和――科学と理性に基づいた繁栄』(芙蓉書房出版、2022年)がある。