進化政治学に基づいた平和構築論

―進化政治学の現実世界への適用の模索―

コンシリエンス学会研究会(2022年 6月19日(日) 13時~14時30分)

【テーマ】進化政治学に基づいた平和構築論―進化政治学の現実世界への適用の模索―

【報告者】須田道夫

【討論者】蔵研也

【司会者】伊藤隆太

申込https://peatix.com/event/3251070/view

【要旨】

今回は外務省の須田道夫氏をお招きして、「進化政治学に基づいた平和構築論―進化政治学の現実世界への適用の模索―」というテーマでご講演いただきます。討論者として蔵研也先生にご登壇いただきます。

須田氏は「平和構築の新たな視座―リベラリズムとリアリズムの双方向アプローチ―」『戦略研究』(第30号、2022年3月)において、「国際主体による冷戦後の平和構築支援はリベラル平和構築論(LPB)を基盤とするがリベラル的なアプローチには不十分な面あり、その弱点克服のためにはリアリズム的アプローチも重要。ミンダナオ和平の文脈では部族主義を直視した進化政治学の知見によりLPBの脆弱性を科学的に強化することが不可欠」という主張を提起されました。これは須田氏によれば、「『進化的リアリズム』(セイヤ―、伊藤)により強化した平和構築論」という試論の一端を論じたものであると同時に、生得的な人間本性が後天的な環境要因によって相殺されるという、スティーヴン・ピンカーの「暴力衰退(decline of violence)」説をLPBに適用した理論といえます。

そこで、本研究会では、進化政治学の現実世界への適用を模索していくためのアプローチとしての「進化的リアリズムにより強化した平和構築論」の事例研究の輪郭を試論としてご報告いただき、同理論の構築をさらに推進していきます。第一に、ボスニアPKOと南スーダンPKOに関し報告者の実体験を含む危機対処事例等を題材に、LPB等の社会科学的な説明を、進化政治学の知見をもって科学的に強化することを試みます。第二に現在、ミンダナオ和平の平和構築支援の場で、同理論がいかなる形で適用されうるのかを示します。

これまで進化政治学は戦争・戦略研究を中心として、学術研究として大きく発展してきました。今回の研究会ではその進化政治学を平和構築分野に応用するのみならず、それが現実の政策決定において重要な役割を果たしていることを示してまいります。

キーワード:リアリズム、リベラリズム、進化政治学、平和構築、理論と実践

※本報告内容は、筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではないことを付記いたします。

【報告者略歴】

須田道夫(すだ・みちお)

在フィリピン日本大使館・一等書記官(元一等陸佐)。兼ねて、ミンダナオ和平メカニズムの一つである独立・退役武装解除機関(※注)(Independent Decommissioning Body:IDB)の任務支援統括官としてバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域のコタバト市に派遣され現地で活動中。

※注:独立・退役武装解除機関(IDB)への日本の要員派遣については下記の外務省及び在フィリピン日本大使館HP参照:

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000776.html

https://www.ph.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00795.html


1987年 立教大学社会学部卒、陸上自衛隊入隊

1992年 米国ピッツバーグ大学大学院国際関係論修士課程卒

1993年 モザンビーク国連PKO派遣

1997年 陸上自衛隊幹部学校指揮幕僚課程卒

2001年 韓国陸軍大学卒

2001年 陸上幕僚監部調査部・朝鮮半島担当分析官

2002年 国連本部PKO局に派遣され、同局の軍事計画官として中南米、中東などのPKOの計画策定に従事

2007年 中央情報隊情報処理隊長

2010年 西部方面情報隊長

2011年 西部方面総監部情報部長

2015年 国連本部PKO局に派遣され、同局の国連高級政務官の上級軍事補佐官としてアフリカ東部などのPKOの政軍関係の調整に従事

2020年 陸上自衛隊定年退職、中途採用試験を経て外務省入省、在フィリピン日本大使館勤務発令

2022年 ミンダナオ和平メカニズムの一つである独立・退役武装解除機関への派遣開始


陸上自衛隊現役当時の専門領域は、情報(職種も情報科)及び国際平和活動。研究実績としては、国連PKOに関する論考を『国際安全保障』誌などで数本公刊。


【討論者略歴】

蔵研也 (くら・けんや)

1966年 富山県氷見市生まれ

1984年 富山県立高岡高校卒業

1988年 東京大学法学部卒業

1995年 カリフォルニア大学サンディエゴ校 経済学Ph.D.取得

1995年 名古屋商科大学商学部 専任講師

1997年 岐阜聖徳学園大学経済情報学部 准教授

2022年 退職


著書 

『リバタリアン宣言』 朝日新書 2007年

『無政府社会と法の進化』 木鐸社 2007年

『18歳から考える経済と社会の見方』 春秋社 2017年

翻訳書

『通貨・銀行信用・経済循環』 春秋社 2015年

『オーストリア学派』 春秋社 2017年

『知能低下の人類史:忍び寄る現代文明クライシス』 春秋社 2021年

【司会者・略歴】

伊藤隆太(いとう・りゅうた)

広島大学大学院人間社会科学研究科助教、博士(法学)。

2009年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同大学大学院法学研究科前期および後期博士課程修了。同大学大学院研究員および助教、日本国際問題研究所研究員を経て今に至る。戦略研究学会編集委員・書評小委員会副委員長・大会委員、国際安全保障学会総務委員、コンシリエンス学会学会長。政治学、国際関係論、進化学、歴史学、哲学、社会科学方法論など学際的研究に従事。主な研究業績には、『進化政治学と国際政治理論――人間の心と戦争をめぐる新たな分析アプローチ(芙蓉書房出版、2020年)、『進化政治学と戦争――自然科学と社会科学の統合に向けて』(芙蓉書房出版、2021年)、『進化政治学と平和――科学と理性に基づいた繁栄』(芙蓉書房出版、2022年)がある。