「総合知」とは何か、

どうアプローチするのか



【報告者】堀尾正靱 【司会者】伊藤隆太

 【討論者】永田伸吾、和田悠佑

コンシリエンス学会研究会(20223月2613時~15時)

【テーマ】「総合知」とは何か、どうアプローチするのか

【報告者】堀尾正靱 /【司会者】伊藤隆太 / 【討論者】永田伸吾、和田悠佑

【申込】コンシリエンス学会 #5 | Peatix

【要旨】

社会-技術システムの持続可能な形態への移行が世界的な課題になる中、多分野の連携、分野横断型の学のプラットフォームの形成が世界で模索されている。そんな中2021年4月に閣議決定された第6期科学技術・イノベーション基本計画では、第5期科学技術基本計画には全くなかった「総合知」という言葉が計36回使われ、「人文・社会科学と自然科学の融合による「総合知」を活用して、カーボンニュートラルの実現に向けた…」(p.28) といった記述が行われている。また、「⼈⽂・社会科学の知と⾃然科学の知の融合による⼈間や社会の総合的理解と課題解決に貢献する「総合知」に関して、基本的な考え⽅や、戦略的に推進する⽅策について2021 年度中に取りまとめる。あわせて、⼈⽂・社会科学や総合知に関連する指標について2022 年度までに検討を⾏い、2023 年度以降モニタリングを実施する。」(p.56)という。すべての学術分野にかかわるこのような重要な方向付けを、審議会での検討の後、学術会議等での議論に付すこともなく閣議決定し、また、2021年度1年間だけでとりまとめを行い、2023年度以降はモニタリングを行い、研究費配分等にも評価指標が適用され始めるということである。


同じ自然科学や医農工学分野でも、分野間連携はもちろん、また概念次第ではあるが、「融合」はなかなか困難である。「自然科学と人文・社会科学の融合」が、急ごしらえの「指標」に基づいて国家政策として追及されるとすれば、各分野の内発性が乱され、さらなる混迷が日本の学術活動にもたらされかねない。


とはいえ、分野横断型のプロジェクトや、各学術分野間の交流を積極的に行っていくこと自体は現代的な課題であるし、それ自体に科学哲学および科学社会論的に重要な課題を含んでいる。また、研究者の視点から、この課題に関する検討を進めることは上記混迷を回避する上でも重要である。


そこで、本講演では、これまでの筆者の研究開発経験(化学工学、鉄鋼、エネルギー、材料、粉体科学、廃棄物、地球環境、気候変動対策、公共政策、地域主体形成等)に基づいて、学融合のダイナミックスのケーススタデイを試みたのち、自然科学と社会科学との融合とはどのようなことなのか、どのような可能性があるのか、また、学術研究の実践現場においてはどのような力学が働くのか、研究者はどうアプローチしたらよいのか、また、政策担当者はどうすべきかなどを、試論として展開する。コンシリエンス学会の皆様との議論からさらなる発見が生まれれば幸いである。

【報告者略歴】

堀尾正靱(ほりお・まさゆき)

東京農工大学名誉教授。工学博士(名古屋大学)。

(一社)共生エネルギー社会実装研究所理事長

  • 1971年    名古屋大学大学院 工学研究科 博士課程単位取得退学(1974年工博)

  • 1971-82年  名古屋大学在職

  • 1974-76年   米国ウエストバージニア大学に出向(NASA プロジェクト等)

  • 1982-2008年 東京農工大学在職(化学工学、移動現象論、流体工学、粉体プロセス工学、エネルギー資源論等)(1982:工学部助教授;1991:教授;1995:大学院生物システム応用科学研究科(BASE)教授)

  • 2008 - 13年~ 早稲田大学環境総合研究センター研究院客員教授;2013年以降:招聘研究員

  • 2008 - 14年  科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)、「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」領域総括

  • 2010-15年   龍谷大学政策学部教授(環境エネルギー・適正技術戦略)

  • 2020-    (一社)共生エネルギー社会実装研究所理事長

鉄鋼プロセスの解析で学位取得後、専門分野を化学工学、流動層工学、粉体反応工学、環境・エネルギー工学に展開。

2002より5年間東京農工大学COE「新エネルギー・物質代謝と生存科学の構築」リーダーを務め、研究領域を拡大。JST-RISTEXでの領域総括、龍谷大学政策学部での教育研究を経て、物質・エネルギーシステム論、科学技術社会論、および、内発的発展論の視点から、気候危機からの脱出と持続型社会への移行について、全国各地の地域や技術の現場での実践を行いつつ研究している。


【司会者略歴】

伊藤隆太(いとう・りゅうた)

広島大学大学院人間社会科学研究科助教、博士(法学)。

2009年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同大学大学院法学研究科前期および後期博士課程修了。同大学大学院研究員および助教、日本国際問題研究所研究員を経て今に至る。戦略研究学会編集委員・書評小委員会副委員長・大会委員、国際安全保障学会総務委員、コンシリエンス学会学会長。政治学、国際関係論、進化学、歴史学、哲学、社会科学方法論など学際的研究に従事。主な研究業績には、『進化政治学と国際政治理論――人間の心と戦争をめぐる新たな分析アプローチ(芙蓉書房出版、2020年)、『進化政治学と戦争――自然科学と社会科学の統合に向けて』(芙蓉書房出版、2021年)がある。


【討論者略歴】

永田伸吾(ながた・しんご)

金沢大学人間社会研究域法学系客員研究員。金沢大学大学院社会環境科学研究科博士後期課程修了(法学)。

ウィリアム・アンド・メアリー大学歴史学部訪問研究員、成蹊大学アジア太平洋研究センター客員研究員など経て、今日に至る。主な専門分野は国際政治学。2011年~12年度にかけて科学技術振興機構・社会技術研究開発センター(JST/RISTEX)研究開発プロジェクト「自閉症にやさしい社会:共生と治療の調和の摸索」(「科学技術と人間」研究開発領域)に研究実施者として従事した。


和田悠佑(わだ・ゆうすけ)

立命館大学大学院国際関係研究科博士前期課程在籍(2022年3月修了予定)。国際教養大学国際教養学部卒業。

学部時代にバルセロナ自治大学政治・社会学部、修士でアメリカン大学School of International Serviceへの交換留学を経験。特に国家間関係における信頼の役割について研究を進めている。修士論文のテーマは「インド‐パキスタン間での和解における首脳間信頼の役割」。