嫌悪の進化と社会の問題 ― 虫嫌いから差別まで


【報告者】深野裕也 /【司会者】伊藤隆太

コンシリエンス学会研究会(2021年 5月29日15時~16時半)

【テーマ】嫌悪の進化と社会の問題 ― 虫嫌いから差別まで

【報告者】深野祐也 /【司会者】伊藤隆太

【申込】https://peatix.com/event/1901624/view(開催済)

【要旨】

嫌悪(disgust)は人間が持つ基本的な感情で、主に感染症を避ける進化的な機能があると考えられています。われわれは、このような嫌悪の進化心理学的な側面に注目して、現代社会において虫に対して嫌悪感を持つ人が多い理由を都市化に伴う環境変化から説明しました(Fukano & Soga 2021)。現代人の虫嫌いの多さは、地球上の全ての種の8割を占める節足動物の保全が進まない要因の一つとして捉えられており、虫嫌いの理由を解明することで生物多様性の保全が促進することが期待されます。本講演ではまず、この虫嫌いの進化心理学を中心にお話しします。

嫌悪感は、虫嫌いのように、感染症リスクと関連した動物に対して生じるだけではありません。進化適応環境においては病気の脅威が高かったと考えられる外集団成員や疾患と関連した特徴を持つ人に対しても、嫌悪は生じます。このような他者に対する嫌悪感は、現代社会における様々な差別と関連していることが報告されています。本講演の後半では、嫌悪感と現代の差別との関連を議論した研究をいくつか紹介したいと考えています。現代社会において、差別は深刻な問題です。我々がもつ差別の進化的な背景を紐解くことで、この問題を緩和するための効果的なアプローチが出てくるかもしれません。

【参考文献】

Fukano, Y., & Soga, M. (2021). Why do so many modern people hate insects? The urbanization–disgust hypothesis. Science of The Total Environment, 777, 146229.

日本語プレスリリース:なぜ現代人には虫嫌いが多いのか? ―進化心理学に基づいた新仮説の提案と検証― https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20210312-1.html

【講演者略歴】

深野祐也(ふかの・ゆうや)

東京農工大学農学部卒業、九州大学大学院で博士号を取得。学振特別研究員DC1、PDなどを経て、現在、東京大学大学院農学生命科学研究科生態調和農学機構助教。進化生態学が専門。